小学校受験に取り組むお子さんにストレスはかかるのでしょうか。結論から申しますと小学校受験に臨む幼児にとって、小学校受験に関係するあらゆることがストレスの原因となります。中学受験に臨む小学生や高校受験に臨む中学生、はたまた大学受験に向かう高校生を考えれば、5歳の彼ら彼女たちにどれほどのプレッシャーがかかっているかは想像に難くないですね。
では、小学校受験はお子さんにとって辛くて耐え難いものなのでしょうか。答えはNoです。毎年私たちの教室を巣立っていく子どもさんたちに「お勉強どうだった?」と尋ねると、そろって「楽しかった!」「面白かった!」という答えが返ってきます。なぜでしょう。
一言でいえばそれは彼ら、彼女たちが幼児だからです。年齢が上でのそれぞれの受験と違い、幼児期の子どもはまわりの大人の工夫によって勉強を楽しく感じることもできれば、時に入試へのチャレンジを楽しみに待つことさえできます。つまりお子さんを支える私たちのやり方次第で本人の受験に向けてのストレスを最低限でおさえ、負担を軽減することができるのです。
今回は、小学校受験でどの子も感じるストレスについてその解消法とともにお伝えします。
「小学校受験に取り組むお子さんでストレスを感じない子はいませんよ、私も授業中にその小さい背中を見ながらかつてわが子に言われた言葉を思い出します。」と、たくさんの小学校受験生が通う幼児教室の教室長。「入試が近くなると特に子どもたちは不安定になることがよくあります。夜中に突然泣き出したり、おじいちゃん、おばあちゃんに乱暴に当たったり、幼稚園、保育園での様子が変わって先生を驚かせたり…小さな背中にいろいろなものを背負って闘っているんです。」
では実際にお子さんはどんな時にストレスを感じるのでしょうか。冒頭で「小学校受験に関係するあらゆること」で感じるものだ、と書きましたが特に強く感じる場面は次のような場面です
ここではこの3つの場面にしぼっての解消法を考えてみたいと思います。
教室に向かう道すがらは、できるだけリラックスするように心がけましょう。この前はあれができなかったから今日は頑張って、とか、今日は授業の途中で~したらダメよ、などという”アドバイス”は不要です。実はこれは親自身に(子どもと同様に)かかっているプレッシャー(あるいはストレス)のはけ口としてお子さんを利用しているだけですので、お子さんにとっては迷惑このうえない、ということになります。ではどんな会話をしながら教室に向かえばよいのでしょうか。それは「受験や勉強と全く関係のない話を楽しくしながら」が正解です。この間のあれは面白かったね、や、今度入試が終わったらみんなで~~に行こうね、など何でもいいのです。大切なことは笑顔で話をすることです。
そして教室での授業が終わっての帰り道は、リラックスしているお子さんと一緒にその日の授業を振り返り、よくできたとこををほめてあげたり、これからがんばる課題を確認したりしていただきたいのです。行きは緊張したお子さんがリラックスできる会話を、帰りはリラックスしたお子さんとその日の振り返りを、ということです。この行きと帰りが逆になっているご家庭をよく見かけます。
受験を通してもっとも長い時間を過ごすのがこの場面です。この場面を乗り切っていくことがまさに受験を乗り切るということでもあります。それは入学考査というのは「そのお子さんがある程度のストレスを感じながらもそれを上手にコントロールできるか」を見るものでもあるからです。まずできればノンストレスで、ということはあきらめてください。勉強とは適度なストレス(言い換えれば緊張感)がつきものです。決して悪いことではありません。
大切なことを一つだけお伝えします。それは「スマイル」です。親の表情です。どんなに難しいことに取り組んでいてもそばにいるお母さん、お父さんが笑顔で見守っていてくれるだけでお子さんにかかるストレスはかなり軽減されます。時に強めに叱らなければならない場面もあるでしょう。そんな時も一瞬厳しい表情を見せたとしてもその直後にはニコッとスマイルを見せてください。これはストレス軽減だけでなく、緊張状態よりリラックス状態のほうが学習効果は高い、という理屈からしても家庭学習の理想的な親のスタンスです。言うは易し・・・なのですが少し意識してみてください。
1)の教室に向かうときと同様にできるだけリラックスした状況でテスト会場に向かいましょう。その上で自然な流れでお子さん本人を落ち着かせることを意識してください。入試というのは本番で本来の力を発揮できるか、ということが合格に大きく影響します。受験指導がしっかりしている幼児教室では入試当日までに模擬テストは数回あるはずです。その1回1回が全て入試本番の練習のつもりで模擬テストに落ち着いて臨んでください。
幼児教室のスタッフは小学校受験のプロ集団ですから、ストレス対策には繊細な配慮をしています。実際に私どもの教室でも年長さんの夏には盛んに叱咤激励をし励ましていたクラスでも、秋口になるとトーンが大きく変わり、落ち着いた雰囲気で励ましや自信を持たせることを重視した指導に切り替わります。親御さん含め本人は入試本番が近づくとどうしても浮き足立ってしまいがちです。そんな時こそ教室スタッフは(自身のはやる気持はグッと抑えて)落ち着いた平常心を意識して接するのが役目です。
私が経験した中でストレス解消の具体的なアイデアとしてユニーク、かつ効果的と思われる方法をひとつご紹介します。これは私どもの教室出身で現在筑波大附属駒場中に通うある子のお母さまから教えていただいたアイデアを教室で実践しているものです。それは「自分のお母さん、お父さん以外の人からほめてもらう」という体験です。授業が終わった後帰り支度をしながら、あるお母さんが隣のお子さんに「今日のスキップがとってもかっこよかったね」とか「チームで相談しているときにみんなの話をとてもよく聞いていたね」などと声をかけるのです。一言の労いの言葉がそれまでの疲れを消し去ってくれることが大人でもあるように、こういった第三者からの賞賛や評価はお子さんのストレスを軽くするのに役にたっているのではないでしょうか。
冒頭で紹介した教室長の話の続きです。この教室長はかつてのある日、小学校受験に向かっていた息子が泣きながら「お母さん、がんばってって言わないで、ぼくはもうたくさんがんばっているんだから。」と言った言葉をずっと大切に日々の受験指導に臨んでいるそうです。そして入試本番が近づいてくると必ず自分のクラスのご両親に「がんばれ!」でなく「がんばってるね!」と言うようお願いしているとのことです。
どうせやるならぜひ、
「親子で成長できる小学校受験を!」
幼児、そのご父母、幼児教室スタッフ、小学校現場などから生の声を収集することを日々のフィールドワークとしている
横浜国立大学教育学部心理学科卒