「小学校入試はやはり積極的なお子さんのほうが有利なのでしょうか?」と聞かれることがあります。そんな時にお答えするのは「同じタイプばかりのメンバーよりいろいろな個性がそれぞれに影響を与え合っている集団のほうが魅力的だと思いませんか。おそらく小学校の先生も新1年生のいいクラスをつくるためにそういう観点でいろいろな個性のお子さんを探していると思いますよ」ということです。小学校入試では、学力やその他の力が合格基準に達している場合に「積極性が足りない」という理由だけで不合格になることはまずない、と言ってよいと思います。
では、小学校入試に積極性は必要ないのかと言うと「そんなことはありません。積極性はあるに越したことはありません。」が答えになります。なぜなら積極性は幼児本人の「意欲」とおおいに関係するからです。適度な積極性はあるに越したことはないが、それは小学校受験の準備を通して自然に身についていくもので無理に追い求めるものではない、というのが結論です。
今回は、小学校受験の準備を通して積極性がお子さんに備わっていくための基礎作りの方法をお伝えしたいと思います。お子さんが成長していくにつれてどんなアプローチをしていけばよいか、という観点で段階を踏んでご紹介します。
積極性があるかないかを別の見方をすると、対人関係が得意か苦手かということができます。幼かったり、対人関係があまり得意でないためにまわりを見ることなく、自分勝手に前に前に出るケースがありますが、それは積極性とは言いません。積極性とはあくまでも相手があってのことです。社会の最も小さな単位は家族、あるいは親子です。その最小の単位で十分な会話をし、小さい頃から他者とのコミュニケーションスキルを身につけてください。その際に親のほうが少し意識しておくとよいことがあります。それは
・相手の目を見て会話をすること
・何かをしながら(例えばテレビを見ながら、スマホを見ながら)でなく、会話に集中すること
です。
自分の発した言葉に相手がどんな表情で反応するか、どんなことを言ったときに相手からどんな言葉が返ってくるか、こういった全てが幼児期に必要な体験であり、将来の積極性につながっていきます。
積極性を発揮するのに必要な要素のひとつに「自己肯定感」があります。「セルフエスティーム」とも言います。どちらも「自分自身を価値ある者だと感じる感覚」です。 自分自身を好きだと感じ、自分を大切に思える気持ちのことです。自信につながる感覚ですね。この自己肯定感の低いお子さんは、なかなか自信を持てずに人前に出ること、目立つことに対して不安や時には恐怖を感じます。つまり積極性の土台となっている感覚ですね。この土台の感覚が醸成されていないままに積極性ばかりを追求するのは、お子さん本人にかなりの負担を強います。その結果成長するに伴って却って消極的な性格になっていくこともあります。
幼児期に自己肯定感を高めるのは「ほめる」ことです。何かが起用にできたら「上手だね」、そうでなかったら「頑張ったね」。短い時間で何を終えたら「とてもはやかったね」、そうでなかったら「丁寧にやったね」「やさしいね」「勇気があるね」「がまんづよいね」・・・・・子どもは親の思い通りに育つのではなく、親が子どもにかけた言葉通りに育つ、と言われます。日常生活のさまざまな場面で、子どもの何気ない部分をきちんと言葉に出してほめてやることが自信につながり、自然な積極性を養うことができます。
「ほめること」の大切さをお伝えしましたが、お子さんの年齢があがっていくと、言葉だけでなく実体験と通して自信を持つ場面も必要です。それが「できる、できた体験」です。日常生活の中で何かができた場面を意識して作ってあげましょう。 家の中ではお手伝いがとてもよい機会となります。「○○ちゃん、これをやってくれる?」と具体的な作業をお願いし、それを本人がし終えたところで「できたね、ありがとう」と一言親の気持ちを伝えます。気をつけたいのが、「できたね」の前に「あー、ここをこうするともっといいのに」とダメだしをしてしまうケース。先にそれを言ってしまってはせっかくの「できた体験」が「できなかった体験」としてお子さんの中に残ります。同じことを同じようにやっても、この場合は「できた体験」と180度逆の効果を生みます。つまりやればやるほど自信をなくし、結果として自己肯定感を持てない消極的な子になります。 くれぐれも周りがアッと驚くようなすごいことをさせる必要はまるでありません。日常生活の中での お子さんのちょっとした場面をつかまえて「○○ちゃん、できたね」とさり気なく言ってあげるだけです。そうすることでお子さん本人に不要なプレッシャーを感じさせずに、自然な積極性を養っていけるのです。
更に年齢が上がると、これまでと違い「それなりに頑張らないとやり遂げられないこと」が出てきます。例えば自転車に乗れるようになることやか泳げるようになることなど、家族でボードゲームで遊んで自分が勝つという場面もそうかもしれません。実はこういった場面で「できたか、できなかったか」は大きな問題ではありません。たいていの親御さんはここを勘違いされています。大切ことは二つ、
①最後までやりきったことを認めてほめる ことと
②できなかった時にそれをどう受けとめさせるか、です。
①は「2. 基本的なスタンスは子どもをほめる」で書いたように、普通にほめてあげればよいですね。問題は②の失敗した時、あるいはうまくいかなかった時です。大切なことは「失敗を恐がらせないこと」です。「あー、自分はできなかったんだ。お母さんをこんなにがっかりさせてしまった・・・」と感じた子はもう二度と失敗する可能性のあるチャレンジをしなくなります。そんな子が、まわりの子の前で、間違えたり、失敗したりする可能性のある場面に自分から手を挙げるしょうか。こちらの思う通りの反応がないかもしれない相手に自分から話しかけるでしょうか。親も人間ですから、わが子が失敗をした瞬間に思わずがっかりした表情をしてしまうことがあるかと思います。あまり気にする必要はありません。次の瞬間に笑顔で「惜しかったね」「もう少しだったね」と切り替えればよいのです。うまくやるコツは「お子さんの挑戦をそっくりそのまま親自身の挑戦のように受けとめること」です。すると、次にもう一度挑戦できることが親自身として楽しみになります。これをお子さんが感じ取ることで「失敗は悪いことではないんだ」「何度でも挑戦すればいいんだ」と学ぶのです。
どうしても声の小さい子がいます。入試当日の面接の時に、面接官の先生の質問に答える声が小さくて
先生が聞き取れないとしたら合格をいただくのはむずかしいかもしれません。学校側は、入学後にまわりの子とコミュニケーションがとれない可能性を考えるからです。そんな時、親は次の三つのことを気長に実践してください。
1.こちらから聞き取りに近寄ってやる
2.聞こえるから大丈夫だよ、と安心させてやる
3.もう少し元気な声を出しちゃってもいいよ、とやさしく伝える
逆にやってはいけないことは
4.なんでそんな小さな声しか出せないの?
5.もっと大きな声で話しなさい!
と追い込むことです。声量にはその子の内面的な状態が反映されています。その内面に丁寧にアプローチしていくべきでしょう。4や5の対応はその内面を無視しているためにいつまでたっても声量は大きくなりません。
積極的なお子さんとはどんな子でしょう。声のひときわ大きい子でしょうか。先生の投げかけに「はい、はい、はい!」と答えたがる子でしょうか。知らない人にも元気に挨拶ができることでしょうか。それだけではありませんね。
積極性とは本人の中心にある自己肯定感を土台に、一歩を踏み出すことです。その一歩はおそるおそる、、慎重に、最初は小さな声で・・・で一向にかまいません。小学校受験の準備を通してすべてがうまくいく時ばかりではないでしょう。テストの結果が悪いことも、何かができずに自信を失いかける場面もあるでしょう。でも、それ以上に受験準備には親子が会話する場面、本人のできた体験、失敗を取り戻す場面など、本人の積極性を養うには理想的な環境がそろっています。大切な幼児期に受験準備をすることはその子が将来意欲的に、積極性をもって生きていく準備に他ならない、と信じてやみません。
どうせやるならぜひ、「親子で成長できる小学校受験を!」
幼児、そのご父母、幼児教室スタッフ、小学校現場などから生の声を収集することを日々のフィールドワークとしている
横浜国立大学教育学部心理学科卒