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どんちゃか幼児教室/幼小受験 理英会 久野 康晴(ひさの やすはる)
小中高大学、4つすべての受験指導に携わってきた経験をいかし、
現在、幼少期の子どもたちの成長と発達をサポートする小学校受験指導にあたる
2021年秋に行われた2022年度小学校入試。
コロナ禍での2年目の入試となりました。
第5波がおさまった中での入試となったことは、子どもや保護者様にとって幸いでした。
まず、2021年10月19日(火)から始まった神奈川県下の小学校入試について、振り返ってみます。
昨年同様、考査当日に運動や行動観察を実施せずに、テスト時間を短縮した学校がありました。
昨年は情報が少なかったですが、今年は学校も事前に十分な準備をされ、
私たち幼児教室でも昨年の入試を参考に対策をすることができました。
ここでは、2020年秋に実施された入試との違いや、これからの入試で問われるものとは何かを考えつつ、
今年の入試を総括します。
小学校入試は、これらの組み合わせで選考が行われます。
中学受験や高校受験と大きく異なるのは、ペーパーに偏った試験ではないことです。
(※ほぼ全員が中学受験をする学校では、ペーパーの難易度が高い傾向にあります。
精華小学校や洗足学園小学校が該当します。今年は精華小学校のペーパーの難易度が上昇しました。
慶應義塾幼稚舎のようにペーパーがない学校もあります。)
また、子どもや保護者が、その学校の校風や教育方針に合うか、
合わないかというマッチングの要素が少なからずあります。
その学校に合うご家庭像や、子どもらしさをみています。
小学校入試では、子どもが小学校で集団生活を送れるかという観点で、総合的な選考が行われます。
「どんな子どもに入学してほしいですか?」という問いに多くの先生が「人の話を聞ける子」とお答えになります。
また、お友だちに自分の考えを伝えられるか、協調性があるか、なども大切な観点でしょう。
話はそれますが、大学受験でもペーパーを離れた総合型入試(以前のAO入試)は広まりを見せており、
今後も拡大していくはずです。
私立大学だけでなく、東京大学や京都大学なども国公立大学を含め、ほぼすべての大学で、
AO入試に類似した入試を導入しています。
小学校での集団生活を前提に、お友だちと協調性があるかを分かりやすくみることができるのは、行動観察です。
お友だちとどのように接し、関わっていくかという協調性をみるために、自由遊びはよくある行動観察の課題です。
行動観察は小学校入試特有のものと言ってよいでしょう。
おもしろい宇宙人をつくろう、チームで発表
輪つなぎ
2チームに分かれて、輪つなぎをやります。
ルールは、同じ色がとなり合ってはいけません。
チームのお友だちと仲良く声を掛け合いながら長くつなげましょう。
長くつなげたチームの勝ちです。
トンネルづくり
見本と同じものをチームで作りましょう。
集団で自由制作
これからグループで相談して、遊び道具を何か作りましょう。
使う道具は、かごの中にあります。
まずグループで相談しましょう。
決まりましたか?
それでは、始め。
劇の発表
みんなで相談して、ももたろうと三匹のこぶたの絵本のどちらかを選んでください。
その絵本のどこがよいのかも話してみて、本を決めてください。
決まったら、役を決めて絵本の芝居の練習をしましょう。
それぞれのチームの発表をみてください。
お友だちと相談してボーリングのボール投げる順番を決めて仲良く遊びましょう。
小学校での集団生活では、お友だちや先生に自分の考えを伝えることも大切です。
代表的な課題は、お話づくりや面接です。
トムとジェリーのDVD鑑賞後、「あなたなら、どうやって仲良くなれますか?」という質問が1人ずつおこなわれました。
また、カードを使ったお話づくりが初めておこなわれました。
カードは順番通りに並んでいたようです。
4枚のカードでのお話づくりに加え、最後にもう1枚白いカードが渡され、話の続きを考えました。
絵をみてお話をつくる問題が出題されています。(絵は複数枚あります)
これまで継続してお話づくりが出題されています。(絵は複数枚あります)
ブランコが壊れてしまいました。
くまくんはどんな気持ちでしたか?のように心情を答える問題もよく出ます。
絵画制作では何の絵を描いているか先生に聞かれる場面がありました。
例年同様にさまざまなテーマで絵を描き、それについてのお話を聞かれました。
具体的には「無人島でやってみたいこと」「家で一番好きな食事をしているところ」
「プレゼントを友だちと交換するところ」といったテーマが出題されたようです。
自分が描いた絵について、様子を表すことばや気持ちを表すことばを使いながら、
いきいきとした表情でお話ができるといいですね。
フリートークに近い面接が実施されました。
面接では、型にはまった質問ではなく、1つの質問からの関連質問があるのが普通で、ペーパーとは違って、
短期間で表現力を身に付けることはとても難しいです。
表現力は、日常生活での会話による、ことばの体験の積み重ねや絵本の読み聞かせなど、擬似体験や擬似感情の積み重ねによって身に付くものです。さまざまな人と接することも大切です。
こうした積み重ねによって、相手の話を理解する力や相手の気持ちを感じる力が養われていきます。
また、子どもの自由な発想に大人の常識を押し付けてしまうと、子どもは口をつぐんでしまいます。
大人がしっかりと話を聞いてあげることで、子どもはいろいろなことを自由に話せるようになります。
子どもとたくさん会話をして、その中で稚拙なことばや間違った言い方を教えてあげればいいのです。
2021年11月1日(月)からは、東京都内の小学校入試が実施されました。
行動観察や個別の考査の中で、これも小学校受験特有ですが、子どもたちの生活力をみる課題が出たりします。
また、神奈川県下の小学校入試の振り返りでも書きましたが、お話づくりの課題はよく出題されます。
字が読めない、書けない子どもに話をさせることで、その子のことばの力や表現力、子どもらしい発想力などをみることができるからです。
そういった課題を、東京都の女子・男子の難関校の入試から紹介してみます。
まずは、生活力をみる課題を紹介していきます。
持ってきた新聞紙を丸めて、ボールを作り、投げ上げやキャッチボールをする課題が出ました。
コロナ禍で、ボールの消毒などをカットしたい思惑もあったかもしれませんが、大きな新聞紙を丸めて小さなボールにするのは、制作技能というより生活力に近いものだと思います。
また、コピー用紙を巻いて、輪投げの輪を作る課題が出ました。
折り紙を4つの長四角に折って、切って、それを輪にして輪つなぎをするのはいろいろな小学校で出題され、幼児教室でもやったことがあると思いますが、コピー用紙を巻いて、輪にするのがポイントですね。
輪投げで使えるように、ある程度、細く巻かなくてはいけません。
【ちょっとひと工夫】大きな紙を丸めて小さくする、紙を細く巻く
個別で、「お茶碗、お椀、魚、箸を、トレイの上にどうやって並べますか。自分で並べて下さい。」という 配膳の問題が出ました。 いくつかのイラストから正しいものを選ぶ問題も出ますが、今回はお茶碗、お椀は本物で、箸は塗り箸でした。イラストの選択肢から運良く当たることはありませんでした。
また、タッパーの中に入っている白いご飯(色々な大きさのスポンジ)を箸でお茶碗の中にうつす課題も出ました。
どちらも女子校ではよく出題される内容です。
箸の使い方は、田園調布雙葉小学校、立教女学院小学校でも出題されました。
正しい配膳は、大人でも難しいのではないでしょうか。
学校が女子に求めるものがどんなことなのか、メッセージ性のある出題になっています。
【ちょっとひと工夫】本物のお茶碗とお椀、箸は塗り箸
また、お椀の中に入っているビー玉と立方体を紙皿に箸で移し、すべて移せたら、お椀に箸で戻す課題が出ました。
立方体はともかく、ビー玉を箸でつまむのは難しかったのではないでしょうか。
【ちょっとひと工夫】箸でつまむのがツルツルのビー玉
個別で、ちりとりについて説明する問題が出ました。
最近の家庭では、自走式のコードレス掃除機が主流になってきました。
フローリング、カーペット、畳などの掃除する場所の切り替えもできてしまいます。
また、お掃除ロボットもありますね。
ちりとりを使う場面は玄関前を掃くときぐらいで、ちりとり自体がない家もあるのではないでしょうか。
【ちょっとひと工夫】お掃除ロボットの時代に、ちりとり
「画用紙に目玉クリップで紐を止めましょう」という課題が出ました。
目玉クリップを初めてさわる子どもが多かったと思います。
幼児教室では、洗濯ばさみを授業で使うところはあると思いますが、目玉クリップを扱ったところはあまりないのではないでしょうか。
家のお手伝いの応用編でした。
【ちょっとひと工夫】洗濯ばさみではなくて、目玉クリップ
次に、表現の課題をみていきます。
何かが欠けている絵の中から1枚選んで、足りないものや絵の話の続きを考えて、絵を描く課題がでました。
絵を描いている途中で、どんなお話にしたのか、先生が聞きにきました。
具体的には、次のような絵だったようです。
「綱引きをしている小人の絵」 ⇒ 小人が1人いない
「イヌ、サル、キツネが木を見ている絵」 ⇒ キツネがいない
「相撲取りが相撲をしている絵」 ⇒ 土俵がない
話を聞いて、その内容に沿った絵を描くのではなくて、言い換えれば、指示通りに絵を描くのではなくて、子どもらしい自由奔放な発想力が求められました。
子どもを型にはめていく指導では対応が難しいと思います。
【ちょっとひと工夫】あえて未完成のテーマを与えて、あとは子どもにおまかせ
「この2枚のカードを繋げるとこうなりますね。
二人で何をしているところか相談して発表してください。」 (1分後)
「〇〇番、お話してください」
「△△番、付け足すことはありますか?」
「この後どうなったと思いますか。」
という問題が出ました。
お話づくりを、一人ではなく二人でお話をつくるという手法がおもしろかったです。
まず、自分の考えを相手に伝えること、それだけでなく、次に相手の話を聞くこと、そして相手と相談して二人で話をまとめることなどが求められます。
幼児教室で指導を受けた子どもたちは、すぐに「いいよ」と言って、話がまとまってしまうことが少なくないですが、それでは物足りないですね。
【ちょっとひと工夫】二人でお話づくり
ここでも、お話作りの課題が出ましたが、6枚のカードを使いました。 カードの枚数は4枚程度の学校が多い中で、6枚は多いですね。
また、「あなたの好きな食べ物は何ですか?スカーフで作ってみましょう。」 という質問をされました。
絵を描いたり、画用紙や折り紙で作ったりするのではなく、スカーフを使わせるところが学校側の工夫ですね。
【ちょっとひと工夫】4枚ではなく6枚のカード
ご紹介したのはほんの一部ですが、難関校では、他の学校でも出題されるものに、ちょっとした工夫が されています。 それを感じ取っていただければ幸いです。
別の切り口になりますが、2022年4月に開校する東京都立立川国際中等教育学校附属小学校についてふれておきます。
2021年秋の東京都の小学校入試では、立川国際中等教育学校附属小学校に、どれくらいの受験者が集まるのか、どんな適性検査(公立学校ではこの表現を用います)をおこなうのか、非常に興味関心が高かったと思われます。
12年間の探究プログラム、第1学年から週4時間の英語授業、CLIL(内容言語統合型学習)的な学びによる内容を重視した語学学習など、先進的な教育内容が打ち出されました。
以前に公立中高一貫校が広がりを見せたように、公教育で小学校の一つの選択肢として、このような特徴的な学校が出てくることは、私立小学校にとっては脅威だと思います。
ご家庭からみれば、ほぼ無償で私立と同等、もしかしたらそれ以上の教育が受けられるわけですから。
ふたを開けてみると、募集人数58人(男29人、女29人)に対して、応募人数1,797人(男916人、女881人)、最終応募倍率は30.98倍(男31.59倍、女30.38倍)、
11/14に第1次・抽選がおこなわれ、男女各200名にしぼられました。
抽選倍率は4.49倍(男4.58倍、女4.41倍)
11/28に 第2次・適性検査として、筆記、インタビュー、運動遊びなどがおこなわれました。
受検人員と倍率は、男187(6.45倍)、女190(6.55倍)、計377(6.50倍)でした。
私の一番の驚きは、ほぼすべての情報が公開されたことでした。
こんな小学校入試は初めてでした。
ホームページをみていただくと分かりますが、応募状況、入学手続状況、適性検査の問題など、すべてと言っていい情報が一通り公表されています。
私立小学校ですと、すべての情報がホームページ上で公開されたことはないと言い切っていいでしょう。
学校により違いはありますが、幼児教室や保護者対象の学校説明会では、志願者数、受験者数など教えていただけます。
数値を書面で配付される学校もあれば、口頭で発表される学校、ホームページで公表される学校など、その形態はさまざまです。
合格者数や手続者数まで教えていただける学校は非常に少ないです。
(合格者数と手続者数は異なります。一般的に他小学校との併願受験があるため、合格者数は定員より多めに出します。それが受験の際の実質倍率になります。また、手続者数が分かれば、その学校が定員を満たしているかが分かります。)
また、適性検査の問題がホームページで公表されたことは画期的なことです。
小学校・中学校・高校・大学という4つの受験機会の中で、過去問が書店などで販売されていないのは小学校受験だけです。
書店にあるのは、実際に受験された方から聞き取った内容をもとに作成された「そっくり問題」です。
入試問題の一部が、幼児教室や保護者対象の学校説明会で、プロジェクターで映されたり、紙面で配付されたりすることはありますが、すべての問題が公開されました。
それに加え、配点までも分かるようになっていました。
各私立小学校において、学校が求める生徒像が説明会で話されます。
小学校受験においては、どんな子どもかというところも大切にされているでしょう。
しかし、それと入試問題の非公表は別問題です。
小学校受験という子どもの成長のきっかけとなる機会が、分かりやすいものであることを願います。
最近の小学校入試や教育関連の情報は、コロナ禍と関連付けて語られ過ぎているように感じます。
それよりも、AIや5Gなどの技術革新による急速な社会の変化、情報化、グローバル化などの時代の変化をしっかりととらえて未来に備えることが大切だと思います。
今後、単純な知識学習はAIにとって変わられるでしょう。
すでにそういう教材は世の中に登場しています。
ペーパーは近い将来、個別対応が可能になるでしょう。
そんな中では、自己表現力や協調性などペーパーでは測りきれないものが重要になるはずです。
モンテッソーリ教育やシュタイナー教育などさまざまな幼児教育の手法がありますが、共通しているのは、身体感覚を伴う多様な活動の経験や遊びの中で学ぶことです。
年齢を重ねるにつれ、遊びがゲームに傾倒していくのは目に見えていますから、幼稚園や保育園でのお友だちとの集団生活や遊びは貴重な学びの場です。
幼児教育が早期教育と置き換わって、誤解を生んでしまうことがよくありますが、小学校受験で求められる力は、知識のみを先取りするようなものとは本質的に異なるのです。
〔注〕
考査の内容については、理英会の子どもたちから聞いた出口調査をもとにしております。
若干の相違がある場合がございますので、ご了承ください。